推論と推理 / 山下正男『論理的に考えること』
1931年京都市に生まれる。1953年京都大学文学部哲学科卒業。西洋哲学が専門だが、西洋哲学は東洋哲学とちがって、ギリシア以来、論理学および科学との関係が密接だったので、論理学や科学理論にも研究の分野をひろげる。
まず、
論理とは、与えられた条件から正しい結論を得るための考え方のこと。
論理的とは、その論理の法則にかなっていること。
正しい結論を"論理的に"導くための技術を推論、未知の真理を探るための技術を推理とよぶ。各々には幾つも形式がある。しかし、正しそうに見えても間違っている(論理的ではない)形式もある。
推論
- 論理学は"推論の術"
- 推論とは、「ゆえに」を用いて、前提から結論を引き出すこと。
- 「ゆえに」は、 ∴ と記号で表すことができる。
- 演繹に同じ。
- 推論の形式は幾つもある。
- 一見正しそうに見えても、正しくない推論の形式もある。
例えば、2つの前提からなる推論の形式
1は3より小さい。(第一前提)
3は5より小さい。(第二前提)
∴1は5より小さい。(結論)
一般化すると、よくわかる…
a
日常的に、名詞を代入してみる…
すべての鯨は哺乳動物である
すべての哺乳動物は動物である。
∴すべての鯨は動物である。
- 正しい推論の形式からは、[1.真から真][2.偽から真][3.偽から偽]の何れかが導かれる。[真から偽]が導かれることはあり得ない。
つまり、
正しい前提から正しい結論が導かれるケース。
1<3(真=正しい)
3<5(真)
∴1<5(真)
間違った前提から偶然にも正しい結論が導かれるケース。
3<1(偽=間違い)
1<7(真)
∴3<7(真)
間違った前提から間違った結論が導かれるケース。
7<5(偽)
5<3(偽)
∴7<3(偽)
- 肝心は、正しい「推論の形式」と「正しい前提」を用いれば「正しい結論」が得られるということ。
正しくない推論の形式
すべてのAはBである。
すべてのCはBである。
すべてのAはCである。
名詞を代入すると、
すべての魚類は生物である。
すべての哺乳類は生物である。
すべての魚類は哺乳類である。
あやしい形式は一般化するとハッキリする。
a
第一前提が条件文の推論の形式
□□ならば□□(第一前提)
ところが、□□(第二前提)
∴□□(結論)
三角形ABCと三角形DEFが合同なら、これら二つは相似である。
それらは合同である。
∴それらは相似である。
- 混合してはならない「2つの正しい推論の形式」と「2つの間違った推論の形式」
1.前件肯定式◯
二つの三角形が合同なら、それらは相似である。
それらは合同である。
∴それらは相似である。2.後件否定式◯
二つの三角形が合同なら、それらは相似である。
それらは、相似ではない。
∴それらは合同ではない。3.後件肯定式×
二つの三角形が合同なら、それらは相似である。
それらは、相似である。
∴それらは、合同である。4.前件否定式×
二つの三角形が合同なら、それらは相似である。
それらは合同ではない。
∴それらは相似ではない。
- 但し、「条件文が"逆もまた真"であるとき」は、「後件肯定式」及び「前件否定式」も正しい推論の形式として使える。
- 「条件文が"逆もまた真"であるとき」とは、前件と後件を入れ替えても(=逆)差し支え無い文であるということ。例えば、「ある三角形が等角三角形なら、その三角形は等辺三角形である。」
- しかし、上記したように「逆は必ずしも真ならず」なので、大事をとって「後件肯定式」及び「前件否定式」の使用は控えたほうが無難である。
- 条件文の変化は逆を含めて4つある。
順 二つの三角形が合同なら、それらは相似である。
逆 二つの三角形が相似なら、それらは合同である。
裏 二つの三角形が合同でないなら、それらは相似でない。
対偶 二つの三角形が合同でないなら、それらは相似でない。
- 順と対偶・逆と裏は、同等関係が成り立つ。
- なお、条件文が「逆もまた真」なら、4つの変化は全て同等関係が成り立つ。
推理
- 推理とは、「〜であろう」を用いて、前提から結論を推し量ること。
- 推論は100%信頼の置ける結論だが、推理は100%の信頼性をもたない。
- 推理の形式は幾つもある。
- 一見正しそうに見えても、正しくない推理の形式もある。
逆向きの推論
- 「第一前提が条件文の推論の形式」において「後件肯定式」は正しい推論の形式ではない。但し、確実ではないものの、ある程度は正しい場合がある。
二つの三角形が合同なら、それらは相似である。
それらは、相似である。
∴それらは、合同である。
- これを推理のために用いる。
ある人物の血液型がO型なら、その人物の血痕からO型が検出されるはずである。
ある血痕からO型が検出された。
∴その人物の血液型はO型であろう。
消去法と仮説の承認法
- 消去法とは、複数の物事の中から何かを選び出す際に、条件に合わないものを除外していき、残ったものを採用する方法。
仮説Aが真なら、その仮説から推論(演繹)された結果も真である。
仮説から演繹された結果は(観測や測量のデーターと一致しないので)真ではない。
∴仮説Aは真ではない。
- 仮説と観測や測量のデーターが一致したとしても、「後件肯定式」なので推論ではない。(確実の正しいとは言えない。)
帰納法
- 多くの事実から真の一般的な原理、法則を発見する方法のこと。
- 推論(演繹)の対義語
イヌaはネコを追いかける
イヌbはネコを追いかける
イヌcはネコを追いかける
∴全てのイヌはネコを追いかける
- 今後、ネコを追いかけないイヌが発見されるかもしれない。
類推法
- 二つのものの間の類似に基づいて推理を行う方法。
新薬がネズミによく効いた。
人間とネズミは生理学的に類似している。
∴新薬は人間にも効くだろう。
論理的表現
- 十分条件 命題「AならばB」が成り立つとき、AはBであるための十分条件という。
- 必要条件 ある事柄が成立するために必要な条件。命題「AならばB」が成り立つとき、BはAの必要条件という。
- 矛盾 二つの概念または命題が一定の事象を同一の観点から同時に、一方が肯定し他方が否定する場合の両者の関係。
- 反対 物事の位置・順序・方向・あり方などが逆の関係にあること。
- 小反対 主語と述語は同じであるが質(肯定・否定)を異にする二つの特称判断の真偽関係。
そもそも、
論理とは(logic)
1.思考の形式・法則。また、思考の法則的なつながり。
2.実際に行われている推理の仕方。論証の筋道。
3.比喩的に、事物間の法則的なつながり。
4.論理学に同じ。
- 新明解
1.与えられた条件から正しい結論が得られるための考え方の筋道。
2.現象を合理的・統一的に解釈する上に認められる因果関係。1.a way of thinking about something that seems correct and reasonable, or a set of sensible reasons for doing something
2.a formal method of reasoning, in which ideas are based on previous ideas
3.a set of choices that a computer uses to solve a problem
論理的とは(logical)
1.論理学で取り扱う対象についていう語。
2.論理の法則にかなっていること。理詰め。
3.比喩的に、事物間の法則的なつながりについていう語。
- 新明解
1.前提とそれから導き出される結論との間に筋道が認められて、納得が行く様子。
1.seeming reasonable and sensible
2.using a thinking process in which facts and ideas are connected in a correct way
論理学とは
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