5分でわかる『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

読む前に押さえておきたいポイント


・著者 マックス・ウェーバー(1864-1920)
・国籍 ドイツ
・職種 社会学者・経済学者
・出版年 1905年

現代における評価

社会学や経済学を学ぶ人の必読書として多くの場所で紹介されています。例えば、このあたりが有名でしょうか。

東大教師が新入生にすすめる本
若手行政官への推薦図書

主な日本語訳

梶山力訳(1938年)古典原文に忠実
大塚久雄訳(1988年)定番多くの人に読まれている
中山元訳(2010年)新訳最も読みやすい

予備知識

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読むためには、キリスト教についての知識が必要になります。まずは、下記の内容を上から順に確認してみて下さい。

目次とおおまかな内容

Q. 近代資本主義は何によって生まれたのか?
A. プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神である。

まさに、これが勘所です。
ここに至る経緯を目次に沿ってまとめます。

1章 問題提起
  • 1-1 信仰と社会層文化
  • 1-2 資本主義の「精神」
  • 1-3 ルターの天職観念‐研究の課題
2章 禁欲的プロテスタンティズムの天職倫理
  • 2-1 世俗内的禁欲の宗教的諸基礎
  • 2-2 禁欲と資本主義精神

   ▼

1章 問題提起
  • 1-1 資本主義が盛んな地域では、資本家や企業家、技術的に優れている労働者や商人の多くはプロテスタントの特にカルヴァン派を信仰している傾向にある。これはなぜか?
  • 1-2 彼らには特有の「資本主義の精神」があった。それは、勤労・節約・規律・誠実…といった個々の"資本主義発展のために合理的な"特性を一つの宗教的使命にまとめ上げる倫理的な雰囲気のこと。働かず怠けるほうが合理的なのに、なぜこんな非合理な思想が生まれたのか?
  • 1-3 初期キリスト教にも、宗教改革の指導者だったルターやカルヴァンにも「資本主義の精神」なんて思想はなかった。だとすると、指導者たちの意図と一般信徒との間の「認識のズレ」に理由があるのではないか?
2章 禁欲的プロテスタンティズムの天職倫理
  • 2-1 カルヴァンの提唱した「予定説」の「認識のズレ」は顕著だった。これは「誰が天国にいくか地獄にいくか」は「予め」神様によって決められているという思想だが、これを聞いた一般信徒たちは「自分は天国にいけるのだろうか」と不安になった。信徒たちは、禁欲的に天職に従事することが「救いの根拠」になると信じるようになっていった。
  • 2-2 「禁欲」と「天職」という思想は、時代と共に洗練されていった。例えば、経営者は利益を求めることが、労働者は自分に与えられた仕事をこなすことが「天職」だと考えた。一つの職に従事することでスキルも上がり、良い品を作れば他人のためにもなるから教義の「隣人愛」に適うとも考えた。これらは資本主義の発展にとって合理的だった。

要点をまとめると

近代資本主義が発達した国は、ことごとく強いカルヴィニズムの影響下にあった。発展の主要因は、ヴェーバーが発見した「資本主義の精神」という、勤労・節約・規律・誠実…といった個々の"資本主義発展のために合理的な"特性を一つの宗教的使命にまとめ上げる倫理的な雰囲気にあった。

しかし、この「資本主義の精神」は、指導者であるカルヴァン自身が教義としたものではなく、「予定説」という思想を一般信徒が「救いの根拠」を求めて変造したものだった。

これが、「天職」や「禁欲」という思想と結びつき、資本家には資本家の、労働者には労働者の天職を、神の名誉のために各々が死に物狂いで働いた。金は貯まるも無駄遣いはしなかった。これが、また意図せずして、合理的産業経営を土台とする、歴史的にまったく新しい資本主義の社会機構を作り上げていくことになった。


ウェーバーを巡る論争

ウェーバーが世界に与えた影響は大きく、それ故に反対や批判も少なくありませんが、二通りに分けて整理するとわかり易くなると思います。
より深く理解するためには、それらを知る必要もあるでしょう。

1. ウェーバーの研究に対する反対や批判

つまり、それが本当にウェーバー自身の見解なのか、とする批判。
例えば、【あなたの解釈は間違っています。私の解釈こそ、本当にウェーバーが考えていたことです…】のようなものです。

2. ウェーバーの所論に対する反対や批判

つまり、ウェーバーの考えは間違っているとする批判。
例えば、【資本主義の成立に宗教は関係ない。その証拠に…】のようなものです。

この二種類の批判は、複雑に絡んでいてややこしいですが、まずは、(1.)タイプの批判で色々な解釈の仕方を知ったうえで、(2.)タイプの批判でウェーバーの考え方は本当に正しいのかな、と考えるとスムーズだと思います。


参考までに

『プロ倫』*1のような難しい本、特に「読む人によって解釈が変わる本」を読むときは、いきなり読むよりも、事前に解説書や関連書籍を読んで予備知識を仕入れておくと、結果的にスムーズに進むことが多いです。

よろしければ参考にして下さい。

解説書を読む順番


(1.) 大塚久雄『社会科学における人間』or『社会科学の方法』
1冊目は、日本におけるヴェーバー研究の第一人者あり、『プロ倫』翻訳者でもある大塚久雄の著作から"通説"を知るのが良いと思います。古い本ですが、どちらも講義の内容を編集したものなので分りやすいです。



(※) 1. が難しく感じた人は、『プロ倫』までは少し遠回りになりますが、小室直樹の『日本人のための憲法原論』や『日本人のための宗教原論』を読んで社会学や宗教比較学がどんなものか知るとよいと思います。



(2.) 山之内靖『マックス・ウェーバー入門』
2冊目は、通説に異を立てた代表として山之内靖『マックス・ウェーバー入門』が良いと思います。時間がない人は、本書で通説・異説を一辺に把握してしまっても良いかもしれません。




(3.) 大塚久雄プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の訳者解説
この辺りで確認の意味も含めて、メジャーな『大塚訳』を読んでみると良いと思います。やはり古い本なので、言い回しや古めかしい表現が気になるかもしれません。その場合は、無理せず、巻末の訳者解説だけを読んで通説のおさらいをすると良いと思います。




(4.) 中山元プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
『中山訳』は紙質も綺麗で、文字大きく、表現も現代風なので、余計なストレスを感じずに読むことができます。小見出しが付いているのも理解の助けになります。
※この記事の最後に私が手打ちした小見出しを含めた目次の一覧を載せておきます。よろしければご利用下さい。


(5.) 大塚久雄プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
『中山訳』を読み終えたあとなら、『大塚訳』もスラスラ読めると思います。比較しながら読むのもなかなか楽しいです。

(6.) Web上の記事も楽しめるようになります。
例えば、ウィキペディアでも紹介されている『マックス・ウェーバーをめぐる羽入-折原論争』などがオススメです。



中山元訳・詳細目次

第1章 問題提起
第1節 信仰と社会的な層の分化
資本家と上層の労働者におけるプロテスタンティズム信仰
高等教育におけるプロテスタントの生徒の比率
ドイツのカトリックの異例性
カトリックプロテスタントの対比について
プロテスタントにおける世俗と宗教
本書の課題
第2節 資本主義の「精神」
「資本主義の精神」の概念の定義
資本主義のエートス――フランクリンの文章から
フッガーとフランクリンの違い
フランクリンの道徳
職業の義務の思想
資本主義の倫理と「前資本主義的な」倫理
伝統主義 ―労働者の実例
出来高賃金の問題
労働意欲と宗教教育の関係
伝統主義 ―実業家の実例
「資本主義の精神」再考
「資本主義の精神」の担い手
資本主義の精神を導入する<革命>
<革命>の実例
事業の形式と精神の齟齬
倫理的な資質としての資本主義の精神
変革の担い手
資本主義の精神と宗教性
資本主義と「呪われた金銭欲」
倫理に反する営利活動
資本主義の合理主義
天職の思想の系譜への問い
第3節 ルターの天職の観念―研究の課題
天職としての職業の語について
天職の概念の新しさ
ルターと天職の概念
職業の道徳的な性格
ルターと資本主義
ルターの思想の変遷
ルターの伝統主義
カルヴィニズムの影響
ピューリタニズムの現世重視
宗教と倫理
研究の方法論について
研究の目的

第2章 禁欲的プロテスタンティズムの職業倫理
第1節 世俗的な禁欲の宗教的な基礎
プロテスタンティズムの四つの担い手
予定説の要約
予定説の発生とその影響
脱呪術化のプロセスの完成
カルヴィニズムにおける個人と倫理
救いの確証の問い
予定説の問いに対処するための二つの勧告
職業労働の価値
善行と救い
中世のカトリックとの違い
生活の完全な方法化
西洋の禁欲の特徴
カルヴィニズムの特異性
カルヴィニズムと旧約聖書
商取引の比喩
予定説のもつ力とルター派との違い
カルヴィニズム以外の禁欲の運動
敬虔派のもたらした帰結
ドイツの敬虔派の意味
ツィンツェンドルフ
カルヴァン派とドイツ敬虔派の違い
メソジスト派
メソジスト派の天職概念
禁欲の第二の担い手
再洗礼派の道徳の帰結
教会の規制と禁欲
禁欲的な天職概念のもたらしたもの
世俗内的な禁欲のもたらしたもの
第2節 禁欲と資本主義の精神
宗教のもつ力
ピューリタニズムの代表としてのバクスター
富と禁欲
労働と性交渉の目的
労働と怠惰
経済秩序と労働
ピューリタンの職業概念
実業家の倫理的な輝き
<神の選民>
娯楽の排斥
ピューリタニズムと感覚芸術
娯楽のための支出の制約
<枷>の破壊
禁欲の逆説的な「力」
近代の「経済人」の誕生
大衆と労働の倫理
禁欲と労働意欲
鋼鉄の<檻>
今後の課題
訳者あとがき