クラウド時代にも色褪せない名著/『知的生産の技術』梅棹忠夫

評価★★★★☆



著者/梅棹忠夫
1920年京都市に生まれる。1943年京都大学理学部卒業。京都大学人文科学研究所教授を経て、現在、国立民族学博物館名誉教授・顧問。専攻は民族学、比較文明論

はじめに

学校では知識は教えるけれど知識の獲得のしかたはあまり教えてくれない。メモのとり方、カードの利用法、原稿の書き方など基本的技術の訓練不足が研究能力の低下をもたらすと考える著者は、長年にわたる模索の体験と共同討論の中から確信をえて、創造的な知的生産を行なうための実践的技術についての提案を試みる。

知的生産とは

知的生産というのは、頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら ―情報― を、ひとにわかるかたちで提出することなのだ。……この場合、情報というのは、なんでもいい。知恵、思想、かんがえ、報道、叙述、そのほか広く解釈しておいていい

本書は45年前に出版された本ですが、この知的生産の定義は現代においても変わりません。

カードシステムの誕生

ノートの欠点は、ページが固定されていて、かいた内容の順序が変更できない、ということである。ページをくみかえて、おなじ種類の記事をひとところにあつめることができないのだ。ノートに記入されているものが一次資料で、それを整理しなければならないときなどには、この欠点はまったく重大である。

この欠点は、現代でも悩みの種ではないでしょうか。
Evernote」や「Dropbox」にアイディアをどんなに放り込んでも、それを活用することができなければ意味がありません。

カードシステム

……ぎっしりかきこんだ数十冊の野帳をまえにして、さて、これをどう処理しようかと思案した。ちょいちょいとページをめくって結論をまとめるには、材料が豊富すぎたのである。そのとき、この資料全部を項目別にばらして、カードにしてしまうという方法をおもいついたのだった。

カードの書き方

・他人が見てわかるように書く。
自分というものは、時間が経てば他人と同じ、自分だけにわかるつもりのメモは避けたほうがよい。

・みだし・日付を付ける
カードの上部にみだしを付けておくと検索に便利である。できるなら一行サマリーが好ましい。

・一枚一項目
カード法の初心者は、一枚のカードに書きすぎて失敗する。おもいきって小さい要素に分けたほうが上手くいく。


カードの選び方

・128mm×182mm サイズ
ある程度の大きさがないと複雑な知的作業はできない。

・ある程度の厚み
繰り返し"繰る"ことが前提なのだから、ある程度の強度は必要。

・インクが直ぐに乾く紙質
どんどん書いて重ねていくことが多いから、乾きが遅いと困る。

・罫線を入れるならごく薄く
機能を加えるということは、使い方に制限が加わってしまうこと。


カードの使い方

・分類はしない。
丁寧に分類して保存するならノートで充分、大雑把な分類で構わない。

・組み替える
知識と知識を組み替えてみると、思いがけぬ関連に気付くことがある。そのときには、その発見もカードにする。脳の働きを目で見える形で操作することによって、進行を助けようというものである。

・有限への恐怖へ打ち勝つ
カードを並べて見ると自分のアイディアの少なさに辟易とする。これに打ち勝つ精神の強度が必要である。


現代用にアレンジ

アイディアの保存・検索性に関してはPCが優れているし、クラウドの進歩によりスマホタブレット端末による書き込み、同期も便利になりました。画像や音声が取り込めるのも大きなメリットです。

しかし、実際にやってみると驚きますが、"知識と知識を組み替える"という作業においては、紙媒体が圧倒的に優れています。→バーバラ・ミント『考える技術・書く技術』のピラミッド・プリンシパルとも実に相性が良い。

書き込みや保存については従来通りとしても、構成を練るときは、使えそうなアイディアを検索して、カード化する方法も悪くないかもしてません。


目次

1 発見の手帳
2 ノートからカードへ
3 カードとその使い方
4 きりぬきと規格化
5 整理と事務
6 読書
7 ペンからタイプライターへ
8 手紙
9 日記と記録
10 原稿
11 文章


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