能率的な学習方法を知る/池谷裕二『記憶力を強くする』



著者/池谷裕二
静岡県藤枝市に生まれる。東京大学理科I類に入学、同大学薬学部および薬学系大学院ともに首席で進学。脳の研究を始める。98年、海馬の研究により薬学博士号を取得。東京大学薬学部の助手となり、現在は学生たちと共に「記憶」の研究に励んでいる。



はじめに

本書では、「記憶」や「学習」といった、脳の機能の中でもとりわけ高度で難解な問題についてを取り扱っている。
まず、脳科学の基本的な概念と記憶のメカニズムを説明。続いて、「海馬」と「LTP(長期増強)」を軸としながら、実際にどのように記憶を鍛えたらよいのかを解説している。


そもそも記憶とは?

広辞苑によると…

1.物事を忘れずに覚えている、または覚えておくこと。また、その内容。
2.生物体に過去の影響が残ること。
3.過去の経験の内容を保持し、それを後で思い出すこと。将来の行動に必要な情報をその時点まで保持することも含む。

クワイアの記憶分類

1.短期記憶 (数秒で消える記憶、7個ほどの小容量)
2.長期記憶 (保存期間が長い記憶、さらに細かく分類される。)
 2-1.エピソード記憶 (個人の思い出)
 2-2.意味記憶 (知識として知っていること)
 2-3.手続き記憶 (体で覚えたこと)

●「短期記憶」と「エピソード記憶」は意識的に思い出すことが出来る「顕在記憶」、残りの3つは切欠がないと思い出せない「潜在記憶」。
●「意味記憶」は、「エピソード記憶」から「エピソード」が消えて知識だけが残ったもの。
意味記憶能力は成長とともに衰退する、エピソード記憶は成長と共に発達する。


脳科学

脳と記憶の歴史

古来、宗教的な立場から脳は、神秘性を帯びた畏敬の対象だった。
今から100年ほど前、そんな時流の中、イタリアの解剖学者ゴルジ・スペインの組織学者カハールの二人が脳の構造に科学のメスを入れた。ここに近代神経学の基礎が作られた。
この100年でめざましい進歩を遂げたが、未だに未知な分野も多い。

おおまかな記憶の定着仕組み

1.視覚・聴覚・触覚などの感覚受容器を通して、「側頭葉」が情報を知覚する。
2.情報が「海馬」に送られ、「海馬」によって情報が取捨選択される。
3.必要と判断された情報は、再び「側頭葉」に送られ長期保存される。



まとめると

  • 学習前の心構え

・心配事やするべきことなどを事前に片付けておく。
(ストレスがかかるとLTPは大きく減弱する。)
(集中力の妨げになる。)
・学習する内容に興味を持つこと。
(興味を持つことで海馬がθリズムに乗り、LTPが起こりやすくなる。)
・丸暗記ではなく、構造を理解、法則性を見つけて論理的に記憶する。
(歳を取ると、丸暗記よりも論理だった記憶能力が発達する)
・睡眠時間を十分に確保すること。
(夢は記憶を整理するために重要な役割を果たす。)

  • 記憶のコツ

・一度に記憶する数(チャンク)を7±2以下にする。
(マジカルナンバー7±2から)
・聴覚を駆使する。:音読、聞く
・触覚を駆使する。:書く
・視覚を駆使する。:見る
・その情景を想像する。
・自分の経験(エピソード記憶)に関連付けて覚える。
・人に説明をする。
(自分の理解が不十分なら説明は出来ない。)
・定期的に情報を送り重要性を認識させる
(復習のタイミング:20秒後・10分後・1時間後・就寝前・起床後・3日後・1週間後…)

  • 精緻化を心がける

・精緻化とは、事象の内容を連合させて、より豊富にすること。

・例えば〇〇学を学ぶとして…
1.まず、全体像や◯◯学史を把握する。
2.次に、既に有している知識と関連付けられる箇所を優先して学ぶ。
3.2で学んだ箇所との関連が強い箇所を学ぶ。
4.3で学んだ箇所との関連が強い箇所を学ぶ。以降繰り返す。