【雑感】『アーサー王伝説紀行 ―神秘の城を求めて』

目次

  1. アーサー王を包む「霧」
  2. カムロットはいずこに
  3. "永遠の恋人" ラーンスロット
  4. 最後の古戦場へ
  5. 生き続けるアーサー王

雑感

アーサー王を巡る物語に魅了された著者が "英雄の実態" を求めてイングランドウェールズを巡る紀行文。概ね内容はタイトルから想像できる通り。
著者に共感できるほどに、この"物語群"が好きならば本書を余すことなく楽しむことができるだろう。

そもそも、アーサー王の物語は作者不明の様々な伝説・民話が集められた"物語群"である。例えば、1136年にブルターニュの ジェフリー・オブ・モンマス が纏めた、今日にも影響続く『ブリタニア王列伝』の大筋は以下である。

" 栄光が翳り広大な領土は侵略され、ブリテン諸島に追い込まれてなお、ローマやアングロ・サクソン族による侵攻を受け続けていた苦難の時代に若くしてアーサーが即位する。アーサー王は、まずバドニクスの丘でサクソン人に壊滅的な敗北を与えた後、北方のピクト人とスコット人を撃破してブリタニア全土を解放する。絶世の美女ギネヴィアを王妃に迎え、ついでアイルランドアイスランドオークニー諸島、更にガリア各地を転戦し、ヨーロッパ全土を平定する。幾人もの有能な騎士が討死にするも、ついに大ローマ帝国との決戦に勝利する。以降、ローマ帝国に匹敵するほどの大帝国を築き上げ、ブリトン人の栄光をその絶頂に達せしめた…… "

言うまでもなく、ブリトン人がガリアを征服した歴史的事実も、ローマ軍を撃破した歴史的事実も、まして大帝国を築き上げた歴史もない。
当然、アーサー王が実在の人物でないとする向きも多い。

しかし、これらの史実と幻想の狭間に生まれた物語群は "古き良き時代を追慕するブリトン人たちの心の中だけの真実" ではない。