【雑感】『ケルト神話と中世騎士物語―「他界」への旅と冒険』
2011/9/4 読了 ★
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雑感
ケルト人(=ガリア人・ガラティア人)とは、ローマ帝国出現以前のヨーロッパ世界において、地中海と北海の沿岸地域を除くほとんど全域をその覇権に収めていた騎馬民族である。
その最盛期は紀元前4世紀から紀元前3世紀にかけてであり、紀元前3世紀末頃からは、急速に伸長したローマの力に押されてアルプス山脈の北側に追い返され、更に紀元前2世紀末頃からは、北と東から迫るゲルマン民族の大移動の影響もあり、ついにブリテン諸島に局限された。
以降もローマの侵攻やアングロ・サクソン族による侵攻を受け続けたため、今日なお残るケルト世界といえば、曲りなりにも民族としての自己同一性を保持し得たウェールズ・コンウォール・マン島・ブルターニュ、そして"他民族"に併呑されることのなかったアイルランドだけである。
さて、霊魂不滅思想やケルト的変身譚、妖精・小人…など独自の土着的文化を持っていたケルト民族だが、皮肉なことに此等のケルト世界の古伝承を書き留めたのは、ケルト人の宗教を駆逐しこれにとって変わったキリスト教の修道士だった。
日本の神道と仏教の関係に似ているように思える、ケルト人の宗教を包括してしまう方がキリスト教にとって有用であると判断したのだろう。
つまり、今日からケルト世界を考えるならば、《『コンラの冒険』のようなケルト世界の文化に後付けでキリスト教的な脚色を加えたもの》及び《『メルドゥーンの航海』のようなケルト世界とキリスト教との合成物》があることに注意深くなる必要がある。
本書は、ケルト世界の観念と中世に生まれた騎士物語との関係が実に綺麗に纏められている。ケルト世界ないし騎士物語に興味がある人は読んで間違いのない一冊。