【美の巨人たち 感想】 安本亀八 「相撲生人形」
今週の芸術家
・作者 安本亀八(1826-1900)
・国籍 日本
・職種 仏師、人形師
1826 | 1歳 | 熊本迎宝町(現在の熊本市)の仏師の家に誕生。 |
1852 | 27歳 | 大坂の難波新地にて、生人形「いろは比喩」発表。 |
1868 | 43歳 | 神仏分離令、廃仏毀釈運動のはじまり。 |
1870 | 45歳 | 大坂難波新地南にて「東海道五十三次道中生人形」の見世物興行 |
1875 | 50歳 | 上海で興行を行う。 |
1877 | 52歳 | 内国勧業博覧会に等身大の美貌の活人形を出展。 |
1880 | 55歳 | 内務省博物局開設の「観古美術会」に参加、審査員をつとめる。 |
1893 | 68歳 | 西南戦争を話題にした「一世一代鹿児島戦争実説」発表。 |
1898 | 73歳 | 初代・亀八改め亀翁に改名。長男の亀二郎が二世・亀八を襲名。 |
1899 | 74歳 | 長男が鹿児島で客死。三男が三世を襲名する。 |
1900 | 75歳 | 死去。墓は世田谷区烏山の高龍寺にある。 |
今週の作品
・作品 相撲生人形 野見宿禰と当麻蹶速(1890)
・場所 熊本市現代美術館蔵
・縦横 170x150x160cm
・材質 桐
色白の力士 野見宿禰が、浅黒い力士 当麻蹶速を今まさに投げ飛ばさんとしています。巨大な生き人形です。直立を想定した身長は2体とも2メートルを超えています。この相撲生き人形は『日本書紀』に記された最古の相撲試合から題材が取られています。大和の国の当麻蹶速と出雲の国の野見宿禰が、垂仁天皇の御前で死闘を繰り広げているのです。
野見宿禰は、当麻蹶速の腰に右手を回し、左手で首を掴み必死に投げ飛ばそうとしています。……
その迫真の肉体を作り上げているのは、超絶技巧とよばれた筋肉や皮膚の細部の作りこみです。2体の人形のダイナミックな動きの造形は、絶妙なバランスを取りながら自立しているのです。戦う肉体がぶつかり勝負が決する瞬間の圧倒的なリアリティ。これが幻の傑作とよばれた生き人形。
雑感
生き人形は、芸術か娯楽か?
材質は桐、しかも中を繰り抜いているため軽く、寄木で造られているので釘一本も必要ない。これは持ち運びの利便性や人形の耐久性のため。これだけのリアリティを誇りながら、娯楽としての実用性が第一。
美術品ではなく見世物。
だから、新しい娯楽*1の登場によって消えてしまった。
『相撲生き人形』が完全な状態で残されていたのは、アメリカの美術館に収蔵されていたことが幸いしたそうです。生き人形のような、今日の美術が忘れ去った芸術というものは、少なくないのかもしれませんね。
今日のナビゲーターは、田中久重 の「文字書き人形」以来の「文字書き人形と弓曳き童子」の二人でした。こういった、チープなキャラは(良い意味で)美の巨人たちの魅力的なところだと思うので、また忘れた頃に出してもらいたいですね。
最近だと、ベルニーニのときの彫刻探偵や菱川師宣のときのデザイナーあたりが良い味でてたと思います。
参考
・記事
美の巨人たち - 関連記事一覧
西洋史と西洋美術史を概観する
日本史と日本美術史を概観する
・Webサイト
美の巨人たち 公式サイト - バックナンバー
生き人形 - 日本大百科全書(小学館)
安本亀八- Wikipedia
・書籍・文献
『広辞苑 第六版 DVD-ROM版』 岩波書店
『大辞林 CD-ROM版』 三省堂
『世界大百科事典 第2版』 平凡社
『日本美術辞典』 東京堂出版
『カラー版 日本美術史』 美術出版社
『日本美術史事典』 平凡社
*1:映画…