【美の巨人たち 感想】 上村松園 「母子」


2013年1月12日 放送



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今週の芸術家


・作者 上村松園(1875-1949)
・国籍 日本
・職種 画家


1874 0歳 父死去。母仲仔・26歳の若さで寡婦となる。
1875 1歳 京都の葉茶屋「ちきり屋」の次女として生まれる。
1887 12歳 京都府画学校に入学、四条派の鈴木松年に師事。
1890 15歳 「四季美人図」を出品、一等褒状受賞。
1893 18歳 幸野楳嶺に師事。火事のため高倉蛸薬師に転居。
1895 20歳 楳嶺の死去にともない、竹内栖鳳に師事。
1902 27歳 長男・信太郎が誕生。
1903 28歳 車屋町御池に転居。
1907 32歳 第1回文展で『長夜』が三等を受賞。
1908 33歳 第2回文展で『月かげ』が三等賞を受賞。
1914 39歳 間元町竹屋町に画室竣工。
1918 43歳 異色作『焔』を発表。
1924 49歳 帝展の委員に選ばれる。
1934 59歳 母死去。『母子』を第15回帝展に出品。
1941 66歳 帝国芸術院会員になる。
1945 70歳 奈良平城の唳禽荘に疎開
1948 73歳 女性として初めての文化勲章を受章する。
1949 74歳 死去


今週の作品


・作品 母子(1934)
・場所 東京国立近代美術館
・縦横 168cm×115.5cm
・材質 絹本著色、額装


京都、夏の終わりの黄昏時、夕涼みに出てきたのでしょうか。
若い母親が赤ん坊を抱えています。
その子どもを見つめる慈しみに満ちた眼差し。
背景の唐風の凝った簾は、京の町家の凝った設えだったのか。
地味ながら品の良い涼やかな着物が、この母親が大店の若女房であることを思わせます。
浮世絵とは違い、ふっくらとした母の肉付きを描く縦縞の見事な描線。
それが母の存在感を高め、見るものに迫ってくるのです。
驚くのは、絹の折り目が見える程の薄塗り、その描き方は松園ならではのもの。
決して派手ではない色彩をバランスよく配することで、この母親の気高さを一層引き立てているのです。

雑感

幕末以来、多くの画家が欧米の知識や技法を学びました。
高橋由一や山本芳翠などの最初期の画家たちには、"フロンティア精神"というのか、得も言えぬ魅力が感じられます。

対して、大正から昭和初期にかけての日本画壇は、西洋絵画の急激な変化に翻弄されているようにしか感じられないのです。もちろん、戦争の熱狂や西欧礼讃な社会情勢の後押しも多分にあったのでしょう。

だからこそ、この時代の「新古典主義」的な日本画に、上村松園が一貫として追求した"女性の気品"に、今日にまで続く大きな価値があると思うのです。